「仮面劇場」(横溝正史)

「表」の読みどころがあれば「裏」の読みどころもある

「仮面劇場」(横溝正史)角川文庫

瀬戸内海に浮かぶ
一艘の小舟に設置された硝子の棺。
その中には一人の美少年が
生きたまま載せられていた。
助け出されたその少年は、
盲聾唖の三重苦を背負っていた。
彼を引き取った
未亡人・綾子の身のまわりに
奇怪な事件が…。

読みどころはただ一つ。
謎の美少年を巡る血の因縁です。
横溝得意の筋書きです。
横溝らしさが漲っています。
美少年の正体は?
美少年と
綾子の周囲の人物との関係は?
美少年と瓜二つの美少女は何者?
美少年はなぜ棺桶に入れられて
危険な海に放流されたのか?
そして連続して起こる
毒殺事件の犯人は?
読み応えのある一篇です。
これが「表」の読みどころです。

「表」があれば「裏」もある。
本作品のもう一つの
「裏の」読みどころは、
「いつもは冷静なのになぜか
らしからぬことばかりしてしまう
名探偵・由利先生」です。

らしからぬ由利先生①
思わず怒鳴ってしまう由利先生

美少年と美少女は
同一人物ではないかと睨んだ由利先生。
美少女の写真を確認しようとしたら
なぜか顔の部分だけ切り取られていて
役に立ちませんでした。
それを関係者に揶揄されて
「お黙りなさい!」と一喝。
普段は冷静沈着なのですが、
なぜかこの事件では
頭に血が上っています。

らしからぬ由利先生②
不用意な発言をする由利先生

美少年が殺されかけているのを
間一髪で救った由利先生。
美少年を保護している
綾子未亡人にかけた言葉が
「奥さん、あなたのペットは
生きていますよ」。
普段は軽はずみな言動は
決してしないのですが、
なぜかこの事件では
不用意な発言をしてしまいます。

らしからぬ由利先生③
見事に推理が外れた由利先生

美少年と美少女は同一人物という
仮説からスタートした
由利先生の推理は、
美少年とは別に
美少女が存在することを知って
根本から崩されます。
「こんなに見事に背負い投げを
食らわされたのは、はじめてだ」という
本人の言葉通りです。

らしからぬ由利先生④
つい横着してしまう由利先生

美少女の存在を知った由利先生が
すぐ現地へ向かっていれば、
それ以降の事件は
防ぐことができたのですが…。
「わたしはこれから家へかえって
ひと眠りする」と横着を決め込みます。
まあ、前夜一睡も
していないのですから
やむを得ないのですが。

と、最後まで冴えない
由利先生なのでした。
もっとも普段通りの名探偵ぶりを
発揮してしまえば、
事件は早期解決し、
物語は成立しないのですが。

(2019.5.19)

Moritz BechertによるPixabayからの画像

※本書はすでに絶版ですが、
 下の単行本および電子書籍で
 読むことができます。

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